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2021年12月14日 (火)

「楷(かいじゅ)の会」会報 第5号

会 報 第  5号
令和3年2月2日


「日本農業の展開過程」(東畑精一著、東洋出版社、昭和11年)について


 東畑精一博士は、昭和8年(1933年)に東京大学教授になりました。その時に著したのが、彼の博士論文「日本農業の展開過程」(昭和8年)です。この書は、農業と経済を結び付け、農業の動態変化を経済変動として分析したもので、現在でも農業経済の分野では不朽の名作として夙に有名です。以下に、この書の内容を概略して紹介します。_

 「日本農業の展開過程」は、明治から昭和初期まで、農業がいかなる展開の過程をたどっているかを記述しているだけでなく、いかなる機構を描きながら農業が展開しているかを分析したものです。この書は、第一章「農業の担当者」、第二章「農業展開の手段」、第三章「農業展開の諸過程」で構成されています。

 第一章は「わが国の経済生活の内部で、わが国農業はいかなるものによって担当されているか」を述べています。特に注目すべきは、実際に農耕を担当している農民は、シュムペーター(「経済発展の理論」のいう「単なる業主」であり、経済発展(農業展開)の担当者たりえないということです。地主および産業組合のような農業団体も自発的に農業の動態変化そのものを創造し得ているものはほとんどないので「単なる地主」、「単なる団体」であると指摘している。この当時まで(明治~昭和初期)先駆者的創造を役割を果たしてきているのはそれ以外の業種ではないかとして、農産物の加工業者、製糸業者や養蚕業者、政府の役割等の概要を述べています。

 第二章は「日本農業の発展を担う者は、どのような手段によって、あるいはどのような作用を手段にして実現しているか」を記しています。農業に展開が行われるのは、農業生産技術の発達であるとして、これを実行することができるのは、新たに付加される資本の作用だとしています。すなわち、農業に付加される資本こそが農業の動的変化を創造する手段であるとしています。そのような資本の提供者はだれであるかを論じていて、「単なる業主」は資本化がほとんどなされえないので、農業の展開のために新しく付加される資本は農民自身の手から出されることはほとんど不可能としています。付加されるべき資本作用はほとんど農業(農民)外からなされていてで、ここでは、農業補助金政策、低金利の貸付、農民への前貸し資金等だとしています。

 第三章は「日本の農業が展開されつつあるもろもろの過程が何であるか」を解説したものになっています。農産物商品化の変化、農業生産方法の発展、農業機械化の応用、土地改良と品種改良、農業経営の構造改革等を主な論点として現状と問題点、発展の可能性を指摘し、これを農業経営問題として多面的に考察しています。

 最後に、「わが国農業の生産方法の発展は顕著であるが、それは未だに個人的規模を打ち破ってしまうには至っていない。」が、「農業関係の流通過程には展開が行われ、これとともに農業関係者の管掌段階の増加があっても、そこには種々の困難な道が横たわっている。」と結んでいます。


日本の農業経営体の実態について


 ところで、東畑精一博士は農業の展開を述べるうえで基礎をなすものとして、当時(昭和7年)の農業経営体の実態を述べています。

 農家戸数(当時は朝鮮、台湾を統計に含めていたが、ここでは内地だけ)は約1270万戸(内耕作農家は564万戸)で、耕作農家の73%は専業で、27%は兼業です。また、自作農は175万戸、小作農は150万戸、自作兼耕作農は239万戸です。

 当時の耕地は約600万haあり、53%が自作地で47%が小作地です。農家の69%が1ha以下の耕地、農家の28%が1ha以上3ha以下の耕地、農家の3%が3haの耕地で農業を営んでいます。耕地所有戸数は512万戸で、その内50%は50アール未満、42%は50アール以上3ha未満、3ha以上は8%(38万戸)しかありません。また、耕地所有戸数の内98万戸は耕作に従事していない地主であるとしています。農業就業人口は当時の統計には出てきていませんが、約1500万人だといわれています。要するに、当時の農業は約600万戸の農家が600万haの農地を約1500万人の農民が関わっていることになっています。この三大数字は明治以降ほとんど変わらないところに日本農業の特徴がありました。

 これらの数字が動き出したのは昭和35年頃でありました。昭和35年以降の日本の経済成長に伴って、農家戸数は減少し、農家の兼業化が急速に進みました。現在の農家戸数は174万7千戸(70%減)、耕地面積444万ha(16%減)、農業就業人口168万人(88%減)にまで減少しました。


【PDF】「楷(かいじゅ)の会」会報第5号
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