「楷(かいじゅ)の会」会報 第7号
会 報 第 7 号
令和3年8月2日
東畑四郎 ~戦後の日本農政の指導者(その1)~
戦後の日本農政で記憶に欠かせない人物がいます。それは東畑四郎氏です。彼は明治40(1908)年11月6日に、一志郡豊池村井之上(現松阪市嬉野井之上町)で、中堅地主の父吉之助、母芳子の四男として生まれました。兄弟は女男男男女男の6人で、長男は精一博士で、東大教授として農業経済の学問的体系をつくった学者として、また戦前戦後の日本の政治・行政の顧問として、その活躍が夙に有名な人物です。
四郎は末弟でしたので、幼いときは「シローシロー」と呼ばれ、東畑家のアイドル的存在であり、母芳子は特にこの四郎氏をかわいがりいつも連れて歩いていました。後になって、母芳子は精一博士と四郎氏を次のように評価していました。「四郎は一緒に汽車に乗っていると、停まる駅ごとに、お茶だ、蜜柑だ、安倍川餅だ、と気を遣ってくれた。精一は洋書の本を飽きずに読んでいるだけ。声もかけてくれない。」と。
東畑四郎氏は、豊地小学校、三重県津中学校を卒業しました。けれは、生来頭がよく、ガリ勉というのではなくいわゆる「秀才」で、中学校の成績は全体で3~5番あたりでした。性格は極めて鷹揚で、いつもニコニコしていて評判もよく、みんなからとても慕われ「副級長」をしていました。第八高等学校を経て、東京帝国大学法学部法律学科に入学しました(昭和3(1928)年)。昭和5年には高等文官試験に合格し、翌年東大を卒業した後、農林省に入省しました。当時は、農業恐慌の最中でした。
経済厚生部、熊本営林局、秋田営林局に勤務した後、彼は中国へ出向となりました。ちょうど日華事変の始まった年(昭和13(1938)年)で、北支那方面司令部、興亜院に勤務し、華北農政に取り組みました。華北の慢性的な飢饉状態の中で、食糧の集荷・搬入をし、民衆に供給していました。さらに北支派遣軍からの制約や注文もあり、まさに孤軍奮闘の中国出向でした。
昭和18(1943)年に帰国し、企画院に勤務後、農政課長として戦争末期の重要農政に参画しました。また、農地改革の立案には中心的な役割を果たしました。農地改革については、彼は特に「土地問題」が日本農業の基本であるとしました。そこで強制譲渡による自作農の創設と小作料金納化の実施を、理論的にも政策的にも一体のものとして組合せ、農地改革案を取りまとめました。農地改革で土地の所有権に触れたのは、日本のような小農国で、土地に対する需要が非常に強く、耕作権で絶えず経済的にも脅かされているところでは、土地の所有権を与えることが耕作権を確立する一番の近道であると考えたからでした。すなわち、自作農の創設より小作農の解放にあったのです。
戦後は、農林省の幹部として、秘書課長、経済安定本部民政局長、食糧庁長官を歴任し、昭和28(1933)年に農林次官になり、翌年退官しました。彼の仕事にやり方は、筋を完全に通しながら、なおかつ現実に対応できるものではならないというもので、行政の進め方としてはオーソドックスなものでした。国会においては、「どうしても通してもらいたい法案には、修正する穴をつくっておくものだ。」と彼は言っていました。とにかく彼はひらめき型、直感型という面を持っていましたが、いつも国民を心から思う親切な役人タイプでした。
「楷(かいじゅ)の会」の活動
令和2年2月2日に東畑精一博士顕彰会「楷(かいじゅ)の会」を立ち上げ、2月10日に会報第1号を発行、2月13日から会員を募集することにしました。以降、今日まで会報は7号を発行することができ、会員は25名を数えるまでになりました。これも会員はじめ関係の皆様方のご理解とご協力のおかげと感謝しております。
会報発行以外の活動としまして、私たち(森川、藤田)が主催している農業の学習会「農業塾」で東畑博士を取り上げ「東畑精一学習会」を行いました(2月14日)。豊地公民館では、豊地まちづくり協議会の皆様を中心にした「東畑精一博士について」の講演会をもつことができました(7月11日)。また、会員を中心として、精一博士の生家、矢土錦山文庫の見学研修を開催しました(8月8日)。「東畑精一さんを学ぼう」という豊地公民館の企画展(11月21~28日)に共催し、豊地地区の皆さんのご理解を得ることができました。
令和3年になって、松浦武四郎記念館・生誕地への視察研修(「農業塾」とかねて)を行い、武四郎記念館友の会長の飯田さんの講演もいただきました(2月13日)。さらに豊地まちづくり協議会の主催した講演会(「東畑博士と米」について)で、「楷(かいじゅ)の会」が講演する機会を得ることができました。6月5日には、豊地まちづくり協議会の「水田アート」活動に参加しました。
【PDF】「楷(かいじゅ)の会」会報第7号
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