「楷(かいじゅ)の会」会報 第8号

会  報 第 8 号
令和3年11月2日


東畑四郎  ~戦後の日本農政の指導者(その2)~


 東畑四郎は、明治40年(1908年)12月6日に一志郡豊池村井之上(現松阪市嬉野井之上町)で、父吉之助、母芳子の四男として生まれました。長兄は東大教授として農業経済学の学問体系を作った東畑精一博士です。豊池小学校、三重県津中学校、第八高等学校を経て、東大を昭和6年に卒業しました。農林省に入省し、経済厚生部、秋田営林局、熊本営林局、中国北支那方面司令部などに勤務し、昭和18年(1943年)に帰国してから企画院を経て、農政課長として農地改革に取り組みました。戦後は農林省の幹部として、秘書課長、経済安定本部民政局長、食糧庁長官を歴任し、昭和28年(1953年)に農林次官となり翌年定年退職となりました。

 戦後の彼の行った農政の中で、農業会の解体後、団体をどうするかが心配の一つでした。食糧庁長官のとき第一次農業団体再編成が始まります。そして、農協中央会と農業会議所を生みました。全国食糧信用協会、農民教育協会、日本穀物検定協会、日本開発企画委員会、日本緑化センター、農用地開発公団、農村開発企画委員会、農林水産技術会議、農業研修所、全糧連、農林水産技術情報協会、全国農業講習所協議会、農政調査会、全国山村振興連盟、全国農業改良普及協会、農村生活総合研究センター、全国農業構造改善協会、農業者大学校、全国農地合理化協会などです。たくさんの団体を作ったり世話したりしたにも関わらず、会長や理事長をやらないで、彼はその中で別に委員会を作って団体を動かしていました。

 昭和40年代になると、彼は普及事業の新しい展開に大きな役割を果たしました。普及事業の改善のためには、第一に「土地問題」と合わせて「教育問題」でした。農業者教育、農業後継者教育の礎を築きました。第二は現場重視の普及事業の展開の重要性の指摘でした。

 農業者大学校の立ち上げに際しては、彼はその目的や方向付けを行いました。「卒業後は村に帰って黙々と農業に専念する。その手法に無理がなく、家畜や作物の出来が良いので近傍の注目を惹き、教えを乞うよう人が自然に集まってくるような、そういう卒業生を出したい。」そういうことで、彼は大学校の設立がなされてきてから、学校運営には強い関心を示しました。入学試験の面接には必ず出席したし、学生に対する講義も欠かしたことがありませんでした。

 「昭和政談」という本がありますが、これは東畑四郎の最初で最後の著書です。この書は、彼が官僚として長年関わってきた農政に対する思い入れを熱く語ったものです。その中で自作農主義というのは、土地を農民に持たせば、それが土地の生産効率の一番高い経営になるという思想で、彼はそれを信じていました。しかし二兼農家ができて土地の所有者が土地の「荒らし作り」をすることが起こってきました。彼はこれを戦前からの自作農の挫折だとしています。

 このように、戦中から戦後の農政の激変期に農政に主体的に関わり、日本農政を動かしてきたのは東畑四郎でした。そんな彼が昭和55年(1980年)に肝不全のために亡くなりました。享年73歳でした。彼の墓(建築家東畑謙三氏の設計である)は京都の大徳寺にあります。


「東畑精一博士の田んぼアート」の稲刈り  10月2日(土)


 豊地まちづくり協議会の企画した「東畑精一博士の田んぼアート」(6月5日、田植え)の稲刈りが10月2日(土)に行われました。

 豊地まちづくり協議会の人たち、豊地地区の小学生や中学生とその関係者に混じって、東畑精一博士顕彰会「楷(かいじゅ)の会」の事務局も参加しました。一部はバインダーで刈り取りをしましたが、ほとんどは鎌で稲刈りをしました。

 イネの品種は、大黒米(黄、紫)とキヌヒカリでした。キヌヒカリは食べても美味しいので、刈り取ったイネは稲架(はさ)架けして乾燥させ、調整するということでした。


農業塾  9期から10期へ


 昨年の9月から月1回行ってきた農業塾の第9期が8月10日(土)で終わりました。9月から第10期講座(毎月第2土曜日)の開始を予定していたのですが、コロナ禍のため1か月遅れの10月9日(土)から年12回の講座が始まりました(場所は松阪農業公園「ベルファーム」です)。

農業塾は、農業を学びながら農業への興味関心を寄せつつ農業知識・情報の深化を図ることにしています。

 また、東畑精一博士顕彰会「楷(かいじゅ)の会」の主要メンバーとして活動していくことになります。今年で10年目の講座ですので、一区切りで終わらず、さらに一層充実したものにするよう講座生ともども努力していきたいと思っています。


【PDF】「楷(かいじゅ)の会」会報第8号
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