【栽培指針】ダイコン

1 ダイコンの持ち味

・ダイコンには主に根を食用とする野菜で、栽培面積、生産量とも日本一であり、根菜類の代表格である。

・ダイコンには食物の消化を助け、胃のもたれを防ぐ働きがある。→ジアスターゼ(餅を食べるとき、焼き魚の焦げ、天ぷら)

・ダイコンの根にはビタミンC、鉄分、食物繊維、消化酵素のジアスターゼやオキシターゼも多い。

・ダイコンの葉には多くのカロチンを含み、ビタミンC、食物繊維、カルシウムなども豊富である。

(1)ダイコンの主な薬効

・胃腸障害、胃炎、胃酸過多、便秘→皮の付いたままダイコンをおろして、ゴマ油を2~3滴落としたものを常食とする。

・つわり、子宮けいれん→大根おろしに少々のしょう油をたらし熱湯をさし、熱いうちに飲む。子宮けいれんには生姜を加える。

・百日咳→大根おろしに同量におろしたナシと黒砂糖を少し加えて毎日飲む。

・ぜんそくの去痰、やけど、打撲傷→大根おろしに熱湯をそそいで辛みをとり、そのおろし汁に脱脂綿を浸してのどに塗る。やけど、打撲傷には大根おろしをつける。

・はしかの発疹→大根のおろし汁1滴と砂糖少々を加え、4~5倍の熱湯を注いで飲む。

・酒の悪酔い、アルコール中毒→大根のおろし汁をたくさん飲むと効く。

(2)ダイコンにまつわる「たとえ」と「俗言」

・「ダイコンおろしをするとき、怒ってすると辛く、笑いながらすると甘い。」→怒るとすり方が乱暴になって辛くなる

・「ダイコンと女房は盗まれるほど良い」→畑に取り残されて見向きもされないようなダイコンはまずくて食えないと同じように、他の男が手を出さないような女房はそれだけの魅力がないことをいう。

・「ダイコン食うたら菜っ葉干せ」→葉を捨てないで干しておけば、いざというときの食料のたしになる。

・「冬至の晩は大根畑で音がする。」→冬至のころがダイコンの生育の絶頂期である。

・「大根を正宗で切る」→つまらないものを名刀で切る。才能の使い方が当を得ていないこと。大人物につまらぬ仕事をさせることのたとえ。

・「大根の皮とらぬアホ、生姜の皮とるアホ」→大根は皮を剥かないで食べると美味でなくなるし、生姜は皮を剥くと食べるところがほとんどなくなる。物事の使い分けを知らず、適切なことをしない愚かな人間のこと。

・「揉んで味出せ干し大根」→干し大根は揉むと組織が軟らかくなり、酵素の働きで甘くなる。人間も大勢の中でもまれると人間ができてくる。

・「風呂吹き大根に米粒」→※のとぎ汁か米粒を入れてゆでると、大根のあくが抜け、苦みがとれ、早くゆであがる。

・「大根の尻尾より蕪の頭」→大根の尻尾になるよりは、小さくてもよいから蕪の頭になった方がよい。人間に生まれたからには、ささやかな仕事でもリーダー格となって先頭をきってやる方が生き甲斐がある。

・「大根の白煮」→味もそっけもなく、無愛想で、少しもかわいらしさがない。

・「冬大根は彼岸半ば」→冬大根は彼岸半ばになれば味がよくなる。

・「練馬大根のよう」→若い女性の太い脚

・「大根頭に牛蒡(ごぼう)尻」→大根は頭の方がおいしく、牛蒡は尻の方がおいしい。

 

2 世界のダイコン

(1)西洋のダイコン

①西洋冬ダイコン

・黒丸形で草姿は伏性のダイコン(スペイン、オランダ)→す入りはなく収穫期の幅が広い。デンプン含量は高く貯蔵性も高い。辛みが強くビールのつまみになる。根茎約6cmで収穫するが、放っておくと10cm、1kg以上にもなる。黒長、黒紫丸、茶丸のものがある。

・早生の白丸小型のもの(旧ソ連)→す入りはやや早い。白丸形のほかには白丸青首、白長系がある。

・黒紫長、草姿が半開のもの(フランス)→やや小型でアントシアンが強い。黒紫長、赤紫長がある。

・灰褐長で根は円筒形のもの(ドイツ)→コルク化した表面に白の横模様が細かく入り、灰褐色に見える。

②西洋夏ダイコン(旧ソ連、ポーランド)

・夏ダイコンは冬ダイコンとハツカダイコンの中間に位置する。デンプン含量は高いが貯蔵性は低い。

③西洋ハツカダイコン

・ヨーロッパで最も多く栽培されているダイコンである。

・莢が短く、多毛、鋭い緑色の葉、大きく丸い頂葉で少ない小葉を持つという形態的特徴がある。

(2)中国のダイコン

①華北ダイコン

・冷涼な気候を好む。冬の期間に貯蔵可能なデンプン含量の高いダイコンである。

・中型、大型が多く、肉質は厚い。

・草姿は立性であり、根形は丸や円柱で、緑や赤の根が多い。

・青首系では内部まで緑色になっているものと、内部だけ赤色になっているものがあり、耐暑性は弱い。

②華南ダイコン

・温暖多湿な地域で栽培されていて、小型、中型、板葉で葉数は少ない。

・根は白色で肉質は軟らかい。デンプン含量は少なく、多汁性で貯蔵性は低い。

(3)韓国のダイコン

・基本的には、中国の華北ダイコンに属している。

・肉質はしまっており、キムチなどに適している。

(4)インドや東南アジア諸国のダイコン

・西洋のハツカダイコンもあるが、多くは華南ダイコンであり、カレーの具として使われる。

・莢とりダイコン(インド、タイ、インドネシア、パキスタン他)→莢を食料とする。

早く抽台して開花する。根部は白く、莢は紫から赤色を帯びて、著しく長い。

(5)日本のダイコン

①四十日ダイコン

・大阪近郊で栽培された夏ダイコンで、早生種で根部が曲がりやすい。

・肉質は軟らかく多汁です入りは早く、かいわれ用になどに使われていて、華南ダイコンに近い。

②亀戸ダイコン

・東京都亀戸の産で、葉はおかめ型で短くて葉色は濃く、根部は小型の円錐形で尻が尖っている。

・根長は25cm程度で表皮は白く、肉質は緻密である。

・煮食や葉も加工されて浅漬けに利用される。

③みの早生ダイコン

・江戸後期に練馬系と亀戸系から自然交雑して選抜され、明治以降に夏ダイコンとして広まった。

・葉は厚くて濃く光沢があり、根部は白く肉質はやや粗です入りも早い。

・あくもあるが、耐暑性が強いので、春や夏まきダイコンとして普及している。

④練馬ダイコン

・沢庵漬けの代表格で、東京の練馬が発祥の地である。

・我が国最大の品種群である。→秋づまり、晩生丸、中ぶくら、三浦、理想、練馬尻丸、練馬尻細

・三浦半島の特産になっていて、す入りも遅く、煮物、なます、おろし等、幅広く利用される冬ダイコンである。

⑤方領ダイコン

・愛知県の方領の産で、歴史の古い品種である。

・葉幅は広くて横に繁茂し、根は首部は張り、長円錐形で湾曲し根の先端が細る。

・肉質は軟らかく、煮食に合う。

⑥守口ダイコン

・根の直径が3cm程度で根長が1mをはるかに超えるダイコンで、肉質はしまって辛みが強く、長漬けされる。

・現在では、岐阜市島を中心とした長良川流域の砂壌土地帯が最大の産地となっている。

⑦白上がりダイコン

・近畿地方に成立した中型のダイコンで、華北ダイコンの系統である。

・長途に自生していたねずみダイコンから交雑したと言われていて、根部は円筒形で尻部まで太くなっている。

⑧宮重ダイコン

・愛知県春日井市の産で尾張ダイコンとして有名である。

・中生の秋ダイコンとして大流行し、根は青首で抽根し、華北ダイコンの形質を伝えている。

・多くの品種に分かれ、種類も多い。

⑨阿波晩生ダイコン

・関西以西で練馬系と宮重系との交雑によって作られ、白首の抽根性品種である。

・主に沢庵用に作られ、根部は細長くて乾燥が容易である。→特に御薗ダイコンは根が55cmまで伸び、伊勢沢庵として有名である。

⑩聖護院ダイコン

・京都の聖護院の産で、江戸後期に宮重系から生まれ、明治中期には京都の主要品種になった。

・根は甘味で煮崩れしないので、煮食に適し、千枚漬けにも使われる。

⑪春福ダイコン

・成立は古く、耐寒性が強くて晩抽性の春ダイコンである。

・草姿は伏性で、根は楔(くさび)の形をしている。

⑫二年子ダイコン

・神奈川県の波多野で自生していたと言われ、種子は小さく、根は細長い楔の形で吸込性であり、肉質は硬くて辛みも強い。

・最晩抽性で、耐寒性、耐暑性ともに優れ、す入りも遅い。→時無ダイコンはこの種に属する。

3 特性

(1)性格

・日本中、どこへ行っても栽培されている野菜で、利用の幅も広い。→生食、煮物、漬物、切り干し等

・ダイコンの根形には「あがり系」と「しずみ系」がある。

・あがり系→砂地で地下水位の高いところで栽培された。砂地の照り返しがあるので、葉は立性で、毛が少なく全体が繊細な形をしている。葉は立性であるので、翼葉はブラインドのように隙間をつくって並んでいる。

・しずみ系→地下水位が低く、乾燥したところで栽培された。土壌水分が少ないので細根で味も辛い。晩生型が多い。

・発芽適温は15~25℃で、生育適温は15~20℃と冷涼な気候を好む。→高温に弱く、23℃以上になると生育障害を起こす。

・カブとダイコンの違い→カブはハクサイやコマツナに近い。ダイコンの種子はいくつもに分かれた莢の先のところにできるが、カブは莢の中央部に多くの種ができて稔るとはじける。ダイコンの葉の表面には細かい毛があるが、カブにはない。ダイコンの花は白から紫で、カブの花は黄色である。

(2)特徴

・葉は短縮茎に叢生し、2/5の葉序で互生している。

・花は白または白赤紫色を帯びた4花弁十字につけ、長い4本の雄ずいと短い2本の雄ずい及び1本の雌ずいからなる両生花である。

・種子はやや角ばった球形、偏球形、卵形で、赤褐色のものが多い。

・昼温22~23℃、夜温17~18℃の条件で肥大が良好である。

(3)作型

・全国いたるところで栽培され、温度条件から秋まき栽培が最適である。→気温の下がる秋口に播種し、厳寒期に入る前に収穫する。

・暖地で晩秋(9~10月)に播種して、冬期に徐々に生育させ、春先に収穫する栽培もある。

・春から夏にかけて播種し、播種後50~60日で収穫する初夏~夏どり栽培がある。

・秋から晩秋にかけて播種し、3~4月に収穫するという春まき栽培がある。

4 栽培管理

(1)畑の準備

・良質なダイコンを収穫するためには、深耕、砕土を十分行って、深く膨軟、通気性の良い土壌にしておく。

・苦土やホウ素欠乏による生育障害が出やすいので、耕起の際に苦土石灰やホウ砂を施用する。

・堆肥、鶏糞、油かすなどの有機肥料は前作に十分施しておく。→ゴミ、石ころを拾ったり、草取りもしておく。(岐根の防止)

・15~20cmの高さに畦立てし、1条植えなら畦幅60cm、株間25~30cmとする。

(2)播種

・畦立て後、3~4日したら種まきをする。→播種時期の期間の幅が狭い(9月1日~10日)

・25~30cmの間隔で1カ所に5~7粒点播する。→苗の小さいうちは互いに保護しあい、生育が良くなる。

(3)間引き

・1回目→本葉1.5枚ころに密生しているところを間引く。1カ所3~4本立ちにする。

 子葉の形が正ハート形のものを残す。

・2回目→本葉が3枚の時1カ所2本立ちにする。生育の早すぎるものや遅いものを間引く。

・3回目→本葉が6~7枚になったころ1本立ちにする。

(4)追肥

・1回目の間引きのとき、1株に軽く1つかみ(園芸化成)を施し、土と混ぜる。

・2回目の間引きのとき、畦の肩のところに浅い溝をほって施し、同時に土寄せを行う。

・3回目の間引きのころ、2回目と反対側の畦の肩のところに追肥し、土寄せしておく。

(5)病害虫防除

・病害虫が発生したら早めに防除を行う。

・病気が発生しやすい環境→高温多雨、低温多雨、日照不足、風通しが悪いとき、排水不良、酸性土壌

・株と株の間が狭く葉と葉が重なり合い、太陽光線のとおりや風通しが悪いとき、よく発生する。

・チッソ肥料を多く施しすぎて、徒長軟弱に育っている場合に多い。

(6)収穫

・根部が肥大してきたら、大きいものから間引きしながら収穫する。

・播種後、早い品種で50~60日、遅い品種で90~100日で収穫できる。

・外見から見た収穫の目安→根が肥大してくると、しだいに葉が垂れてくる。外側の葉が大きくなって葉先が一直線に並び、横から見ると葉の開き方が120度の鈍角三角形になる。

・収穫は土が乾いているときの方がきれいに抜きやすい。

・よいダイコン→す入りしていない。根の伸びがよくずっしりと重い。もち肌でつやがよく皮が薄い。

横すじがなく髭根が少ない。葉がパリパリしていて折れやすい。根も折れやすい。

・貯蔵→排水のよい畑か庭先に70~80cmほどの深さに溝をほり、そこにダイコンを斜めに並べ、その上に凍害を受けないように「こも」か「むしろ」をかけて土を20~30cmかぶせておく。